本研究は、知識ベースを用いた支援システムの試作において、新たに実務支援方策の在り方を基礎づける必要が生じたため、モデル参照型意思決定問題の決定化に基づいた学習システム論的アプローチを用いて理論的考察を主として行うこととした。 得られた知見は以下のとおり。 (1)定式化したモデル参照型意思決定問題において、事象集合が固定されたモデルよりなる集合(因果可変集合)の性質を検討し、この集合が適合度順序の導入により同定モデルを最大元とするブール束を構成することを確かめた。この性質を用いて、モデル同定学習過程を定義し、その意思決定改善効果を検討した。この過程では、同定モデルに向かって適合度を向上させるモデル修正が意思決定改善に直結している。 (2)事象集合の具体抽象関係と推測関数間のシミュレート関係に着目して、モデル間の具体抽象関係順序を定義した。同定モデルよりなる集合(事象集合可変モデル集合)は、この順序関係により目標モデルを最大元とする分配束を構成することを確かめた。また、この性質を用いてモデル具体化学習過程を定義した。 (3)この学習過程において、評価関数を拡張してギャップ解消を行う意思決定問題では、意思決定の改善効果がみられたが、モデルを縮退してギャップ解消を行う意思決定問題においては、改善効果に寄与しない。この知見は、意思決定の様式によってモデル具体化の効果やモデルに要求される具体度が異なることを意味しており、シミュレーションモデルの妥当性の在り方を基礎づける際に示唆を与えるものである。
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