本研究では、都市の時間的変動(建築物の耐震性の変化、建物の地域分布の変化)に着目して、都市における建築構造物の地震被害の特性を明らかにし、その推定を行うことを試みた。これまでの研究成果を以下に記す。 1.木造構造物とRC構造物について、これまでに行ってきた構造物の非線形地震応答解析の結果および宮城県沖地震・釧路沖地震などの既往の地震による被害例をもとに、建物被害に最も影響を及ぼす要因を探った。その結果、建物被害は建物の構造形式とその耐力(壁量)によって大きく影響されることが明かとなった。そこで、建物の耐震性能を表現するパラメータとして、建物の構造形式と壁量に着目することとした。 2.京都市および最近地震被害を受けた釧路市について、建物形式毎の地域分布の時間的変化を、住宅統計や被害統計等を基に明らかにした。その結果、両都市とも旧来からの市中心部と新しく開発された郊外地区では建物分布に差があること、旧市内では新しい建物への建て替えが進みつつあること、などがわかった。 3.建物の壁量(耐力)の時間的変化を既往の研究をもとにまとめた。また、釧路市については被害資料の図面より壁量を求め、その時間変化を明らかにした。多くの地域では近年の建物ほど壁量は多くなり、ばらつきも小さくなるが、釧路では一般に旧来から壁量は多く、年代が変わっても余り変化していないことが明かとなった。 4.上記の構造形式と壁量を変化させ、これまでに構築してきた構造物の地震被害推定手法を用いて構造物の被害を推定した。その結果、古い建物と新しい建物では被害に大きな差が生じること、これらの組み合わせが変化すると地域・地盤によって被害の発生の傾向が変わってくることなどが明らかとなった。今後、データを多く蓄積すれば、時間的変化を統計・数量的に表現し、建物被害を時間的に連続して評価することが可能となる。
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