本研究の目的は、近い将来宇宙空間に構築される宇宙ステーションなどの大型建造物と宇宙プラズマとの間の電磁力学的相互作用について計算機実験の手法を用いて定量的解析を行うことである。 本研究では、大型宇宙建造物の一例としてシャトルテザ-衛星系を採用する。1次元方向に長いテザ-導体系が地球磁場を横切る時に、V×B効果により周辺プラズマとの間に最大5kVの電位差が生じる。これにより、テザ-系近傍ではプラズマの加速加熱、通信計測障害と密接に関係するプラズマ波動励起等の現象が生じると考えられる。特に本研究では、テザ-システムがアクティブになり、定常状態に至る過度状態における高電位衛星近傍の電磁場擾乱に着目した。計算機シミュレーションでは、電離層を想定した磁化プラズマで満たされた2次元空間の中に導電体をおき、その電位をゼロからある高電位にした場合の過度応答について解析を行った。 衛星を周辺プラズマに対して高電位にすると、近傍電子は衛星からの強い電界に加速され衛星周辺に高密度のシースを形成する。このことにより、シース形成時には電子の特性周波数、すなわち、電子プラズマ周波数、及び、高域混成周波数における静電振動が卓越することが予想され、計算機シミュレーションでも確認された。電磁場については、高電位衛星近傍において低域混成周波数付近での擾乱が卓越していた。また、シースから少しはなれたプレシースと呼ばれる領域では電子とイオンの相対速度差による2流体プラズマ不安定性が成長することが計算機シミュレーションより明らかになった。 電磁場の擾乱については、電子のE×Bドリフトによる電流が地球磁場に垂直に過渡的に流れることになり、衛星近傍で擾乱が生じるものと考えられる。また、プラズマ不安定性は衛星の電子加速等に大きな影響を与えるため、それによって衛星の電流電圧特性が制御される可能性がある。これについては検討課題である。
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