alpha2-マクログロブリン(alpha2-M)によるプロテアーゼトラップの速度論的研究は、ヒトのalpha2‐Mと同様の機構を持ちながら、より単純な分子ではないかと思われるカブトガニのマクログロブリン(LAM)やニワトリのオボマクログロブリン(OMG)についても研究を行って、その機構に迫った。その結果、蛍光ストップトフロー法のデータからこれらのマクログロブリンはヒトのalpha2-Mの反応の部分反応を示すことがわかってきた。2量体で1分子のプロテアーゼをトラップするLAMは、4量体で2分子のプロテアーゼをトラップするalpha2-Mの1分子目のプロテアーゼとの反応に対応しており、OMGの場合は2分子目のプロテアーゼとの反応はあるものの1分子のプロテアーゼは取り逃がしてしまうようだ。OMGがプロテアーゼを取り逃がすことと、OMGの構造変化の速度がalpha2-MやLAMに比べて著しく遅いことは対応していると思われる。これらのことと、alpha2-MとLAMには分子内チオールエステルが存在しOMGには存在しないこととの対応については今後の研究課題となる。この間題の解決には、チオールエステルの開裂の速度論的研究が必要となるが、このための測定法については現在検討中である。 これらの反応の温度依存性の実験は、現在予備実験の段階ではあるが、非常に活性化エネルギーが低いことを示している。このことは、構造変化前後のalpha2-Mの熱力学的関係について興味深い事実を示唆しているものと思われるので、今後詳細について検討して行きたい。 なお、この研究の過程で、従来2量体と言じられてきたLAMには4量体のものもあることを示すデータが得られた。この4量体はプロテアーゼをトラップすると2量体になる。この様なマクログロブリンは他に例がなく。蛋白質の進化の面からも興味深い。
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