細菌鞭毛モーターは、細胞膜を横切るイオン流を鞭毛の回転運動に変換する分子機械である。最近当研究室では、海洋性ビブリオ菌の極毛と側毛という二種類の鞭毛モーターが、それぞれNa^+およびH^+によって駆動されることを見いだした。一つの細菌のもつ、共役イオンの異なるモーターの遺伝子を比較・解析すれば、エネルギー変換機構について重要な情報が得られると期待される。 本研究では、まず、海洋性ビブリオ菌Vibrio alginolyticus野性株138-2とリファンピシン耐性株VIK2の細胞内に、エレクトロポレーション法を用いてプラスミドを移入する系を確立した。ベクターとしては、大腸菌ベクターP15Aレプリコンをもつプラスミドを用いると、ビブリオ菌中で安定に保持されることを見いだした。選択には、クロラムフェニコール・テトラサイクリンなどが使えることがわかった。さらに、この菌がヌクレアーゼを菌体外に排出していることを見いだした。そこで、浸透圧ショックを与えてペリプラズム領域のヌクレアーゼを取り除いた菌を用いたところ、形質転換効率が約十倍上昇した。この他、受容菌は対数増殖期後期まで培養し、菌体を洗浄するときには、溶菌を避けるため5-10mM Mg^<2+>存在下で行った。電気パルスは5.0-7.5kV/cmの範囲で与えた。以上の条件のとき最も形質転換効率が高く、DNA1mug当たり10^5程度の形質転換体が得られた。 これと並行して、野性株とリファンピシン耐性株から、紫外線照射や異変誘発剤を用いて、側毛欠損株を数株単離した。さらに、これらの株から極毛の形成・回転・回転方向制御能の欠損した株を多数単離した。現在、これらの株を受容菌として、極毛機能の欠損を相補するビブリオ菌DNA断片のクローン化を試みている。
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