本研究では、視細胞の明暗順応に関与するCa^<2+>結合タンパク質(Sモジュリン)の(1)機能メカニズム・(2)桿体と錐体の順応様式の違いを明らかにするために、分子生物学的手法を用いて研究を行った。 (1)クローニングしたcDNAを用いてSモジュリンを発現ベクターに組み込み、大腸菌中で発現させることに成功した。SモジュリンのN末端は、翻訳後修飾として脂肪酸が付加されることが知られている。脂肪酸を付加する酵素を同じ大腸菌中で発現させることにより、ミリスチン酸が付加された酵素を発現させることにも成功した。それぞれのSモジュリンを単離精製する系を作成した。 SモジュリンのC末端側を欠失させた変異Sモジュリンを発現させるような、変異cDNAと設計し、そのためのオリゴヌクレオチドを合成した。そのオリゴヌクレオチドを用いて、変異cDNAを作成した。 (2)これまでに明らかにされたSモジュリン類似タンパク質のアミノ酸配列において、共通に存在するアミノ酸配列に対応するようなオリゴヌクレオチドを合成した。そのオリゴヌクレオチドをプライマー、カエル・イモリ・キンギョ・メダカ・ゼブラフィシュ・ヤツメウナギの網膜のcDNAを鋳型DNAとして、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により、Sモジュリン類似タンパク質をコードするcDNA断片を増幅し、クローニングした。cDNA断片から推定されるアミノ酸配列を、購入したパーソナルコンピュータを用いて解析し、分子系統樹を作成した。その結果、脊椎動物の視細胞に存在するSモジュリン類似タンパク質には2つの系統(Sモジュリン・ビジニンの系統)があることが明らかになった。それら2種のCa^<2+>結合タンパク質が、桿体と錐体の順応の違いに関与している可能性が示唆された。
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