本研究の目的は、生体膜を介した情報伝達の問題を解明するために、いくつかの情報伝達に関与する重要な膜蛋白質を遺伝子工学によって大量生産し、構造解析に供することである。まず、バキュロウィルスと昆虫の細胞培養系を用いて、グルタミン酸受容体(NMDAレセプター)、mas癌遺伝子産物(アンジオテンシンレセプター)などいくつかの重要な情報伝達に関与する膜蛋白質の大量生産を試みた。 筆者が用いた系は目的遺伝子と同じ転移プラスミド上にbeta-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み込んであり、beta-ガラクトシダーゼ活性を指標に組み替え体ウイルスを選別する系である。まず、EGFレセプター遺伝子、NMDAレセプ夕一遺伝子、mas癌遺伝子産物をこの転移プラスミドにクローニングした。 これらのプラスミドと直線化したバキュロウィルスDNAとをコトランスフェクションを行い、組換え体ウイルスを選択できた。EGFレセプターにおいてはEGF結合活性を示すプラークが得られた。ただし、量的には従来培養細胞などから得られる量と比べて多くなく、二次元結晶化に供するほどの量が得られなかった。NMDAレセプター、mas癌遺伝子産物においては現在、発現をチェック中である。また、P糖タンパク質の一部分をこのパキュロウイルスの系で生産したところ、バクテリアの系に比べて100分の1ほどしか蛋白質を生産しないことがわかった。このことから系全体を見直し、メタノール資化性菌を使った強力な真核細胞の発現系を平行して使用し、大量発現に道を開こうとしている。
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