Escherichia coliに大量発現させたコフィリンとデストリンを抗原としてウサギに作らせた抗体をアフィニティー精製し、マウス小脳及び大脳海馬領域の凍結切片を材料として、主に間接蛍光抗体法により両タンパク質の分布様式を調べた。小脳では、コフィリンは分子層から白質まで広く分布していたが、プルキンエ細胞の細胞体及び樹状突起に比較的多く存在し、また顆粒細胞層にはアクチンの分布と類似した網目状の分布も見られた。デストリンは白質にはあまり含まれず、主にプルキンエ細胞の細胞体と顆粒細胞層に多く分布していたが、顆粒細胞層での分布様式はコフィリンとは異なっていた。ただし、ABC法を用いた場合には、顆粒細胞層ではアクチン、コフィリン、デストリンの三者とも小脳系球にその分布が見られ、細胞体の染色は非常に弱かった。海馬領域では、デストリンが細胞体の豊富な錐体細胞層や歯状回の顆粒細胞層に分布していたのに対して、アクチンはこれらの層には少なく、放線層や多彩細胞層に豊富であった。また、コフィリンは小脳の場合と同様に広く分布しており、放線層では繊維状の染色像も見られた。コフィリンとデストリンは構造的にも機能的にも類似したアクチン結合タンパク質であるが、上記の観察結果は両者の局在が必ずしもアクチンと対応せず、また両者間で分布様式に差異があることを示している。コフィリンもデストリンも同程度のイノシトールリン脂質結合能を有し、また両者ともリン酸化による機能制御が示唆されており、更にコフィリンのアクチン重合調節能はpHにも依存するため、これらの性質と細胞の種類による発現レベルの差異が、両者の分布様式の差異やアクチンと局在が対応しない要因を成している可能性が考えられる。
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