大脳皮質で起こった活動現象は、同時に海馬内に短期記憶のための変化を起こし、続いて大脳皮質に長期記憶の変化を形成するために、大脳皮質にフィードバックされるという仮説が、出されている。この短期記憶から長期記憶への転換の仕組みを考えるうえにおいて、大脳皮質、嗅内皮質、海馬の三者が、相互的にトポグラフィを保ちつつ結合されているかどうかの確認は、非常に重要な示唆を与えるものになる。それ故この研究がなされた。しかし、現在の技術では嗅内皮質・海馬間相互結合関係を直接説明することは不可能であるので、その神経回路を、部分部分に分けて証明することとした。今回の研究目的は、嗅内皮質、海馬台、海馬CA1領域の間にトポグラフィーを保った相互結合が有るかどうかを見ることにある。用いる方法は、順行性及び逆行性の両方行に運ばれる神経標識物質であるDiIを使い、順行性の標識線維が逆行性標識細胞に重なるかどうかから判断する。 順行性の標識線維は、これまでの報告内容と矛盾することなく一致していた。つまり、歯状回、CA3領域の分子層に薄い層状の標識と、CA1領域、海馬台の一部の分子層に標識が見られた。またこれらの標識は、DiIの嗅内皮質内での注入部位によって移動し、トポグラフィーを保っていることが分かる。このとき逆行性標識細胞は、CA1領域、海馬台にみられ、順行性標識の終始すると思われる細胞の細胞体が標識され、その密度も順行性標識線維の密度とパラレルに変化した。それに対し歯状回、CA3領域では標識細胞は皆無であった。それ故細胞体の標識は、シナプスを越えての標識とは考えられない。考え得ることは、嗅内皮質、海馬台、海馬CA1領域の間に、綺麗な点対点対ではないが、トポグラフィーを保った対応関係があることが、予測される。
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