現在、整形外科領域で臨床に用いられている人工関節摺動面の材質は、超高密度ポリエチレン製のソケットと、金属(SUS316L、Co-Cr合金)やセラミックス(アルミナ、ジルコニア)製のボールとの組み合せが一般的である。この摺動面が摩耗すると、人工関節の再置換をおこなわなければならなくなる。また摺動面で発生した摩耗粉は、ステムと骨との間に入り込み、ルーズニングの原因となる。研究代表者は、軸受の潤滑機構に関する研究を人工関節に応用し、人工関節摺動面の摩擦・摩耗を減少させ、その寿命を延長させることを目的として研究をおこなった。 研究代表者は、軸受の潤滑面に微細な凹凸パターンを付加することによって、潤滑特性が向上することを確認している。人工関節摺動面においても、軸受と材質は異なるが同様の効果が期待できると考え、人工関節摺動面に用いられている材質(超高密度ポリエチレン、SUS316L)を用いて潤滑実験をおこなった。まず基礎的な摩擦・摩耗実験装置を設計・試作し、表面に凹凸とパターンを付加した試料での潤滑実験の結果と、凹凸パターンを付加しない試料での潤滑実験の結果を比較した。その結果、摩擦面に凹凸パターンを付加した試料は、摩擦係数や摺動面の摩耗状態、摩擦力の安定性などの面で優れた特性を示すことが確認できた。また、パターンの形状・分布などに関して、最適な条件を得ることができた。次に上記の基礎実験結果をふまえ、実際の人工関節を模擬した摩擦・摩耗実験装置を設計・試作し、歩行状態を模擬した変動荷重を与えて潤滑実験をおこなった。その結果、臨床使用を模擬した実験でも、摺動面への凹凸パターン付加の有効性が確認された。
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