本研究の目的は、「華陽国志」等の魏晋南北朝期の地方志に見られる地理思想・地理的世界観を思想史的に考察することにある。しかしこの期の地方志は、実際にはほとんどが散逸してしまっており、十分な検討を加えられる状況にない。それゆえ、先ず「地方志」の本文の蒐集・確定という基礎的な作業を行なう必要がある。こうした仕事は清朝の学者達によってある程度なされており、その集大成として王謨の「漢唐地理書鈔」があるのだが、残念なことにこの輯逸本は一部分が刊行されているに留まり、多くに部分が散逸してしまっている。そこで平成6年度は、この「漢唐地理書鈔」にならった地理書の輯本の作成に力を注いだ。具体的には、「漢唐地理書鈔」の嘉慶十六年(1811)版の凡例所収の目録、及び「重訂漢唐地理書鈔」所収の目録に収録されている、500種あまりの書名を下敷きにして、地理書の目録、及び輯逸本の作成を進めている。その成果の一部は、「漢唐地理書目(稿)その1-「起漢至唐諸州地理書記」篇-」として、研究成果報告書にまとめた。以後継続して進める予定である。一方、「華陽国志」及びその他の地理関係資料の蒐集については、平成5年度同様予定どおりの成果をあげることができた。歴史地理研究の基本資料のひとつである雑誌「禹貢半月刊」や、逸文蒐集に欠かせない「説郛」など、重要資料を数多く入手することができた。また、後漢から魏晋南北朝期の地理思想の特色を明らかにする目的で行なっていた「紀行文的文学作品」や「遊記的散文」の検討は、「曹操の楽府詩「歩出夏門行」について」(「町田三郎教授退官記念中国思想史論叢」)、「封禅儀記訳注稿」(「中国水利史研究会創立30周年記念論文集」)として公開した。こちらの展開としては、東晋の慧遠の作とされる「遊石門詩並序」を次の対象とし、仏教思想をからめながら考察を深めてゆきたいと考えている。
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