本研究の主目的は、人文・社会科学の基礎となるべき「測定の一般理論」の展開や認知科学の観点から試みることであった。著者が特に目標としたのは、心理学や社会調査におけるデータに関する次の二点であった。 1)データの尺度の性質を、「公理論的測定論」の観点と実践的・技術的な「測定法」の観点から総合的に考察し、これらの分野のデータの性質を明瞭にする。 2)人間や社会を認知的情報処理システムと捉え、それらのシステムの処理能力の理論的限界を考察し、人文・社会科学における「不確定性原理」に相当する理論の構成の可能性を探る。 この目標のもとで、本年度得られた結果は、以下のとおりである。 1)短期記憶システムの効率に関する簡単な数学的モデルを構成し、これと過去の心理学的実験データとの比較によって、人間の記憶の効率的デザインについての考察を与えた。 2)社会調査データの分析により、〓)「回収率」とデータの中の「明確な情報量」との間に、相補的関係があることを明らかにし、〓)パネル調査における質問の「回答カテゴリーの数」と「各回答者の意見の変移率」の間にも、相補的不確定性があることを示した。 これらの成果をさらに、「確率論的エントロピー理論」と多様な実証データの分析と結びつけて、人文・社会科学一般に運用するテーゼを模索、発展中である。
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