研究概要 |
既に9歳を過ぎた18例の聴覚障害児(平均16歳4カ月)を対象に言語学習条件整備用森式シェックリスト(以下,森式チェックリスト)改訂版を適用した。その結果,森式チェックリスト改訂版は次のように利用できることが示された。第1には森式チェックリスト改訂版の総得点(子供の現状)から,その子が将来「9歳の壁」につき当たるかどうかを予測する予測モデル1の構築である。この予測モデル1に関しては3歳時と6歳時に行った「9歳の壁」の有無に関する予測が一致しており,森式チェックリスト改訂版で3歳の時点でかなりの高い精度をもって「9歳の壁」の有無を予測できることが明らかとなった。第2は森式チェックリスト改訂版の下位項目別の得点の変化(訓練による症状の変化)から「9歳の壁」を打破できるかどうかを予測する予測モデル2の構築である。今回の結果から訓練や指導によって得点が変動する項目と変動しない項目があることが明らかとなったが,今後症例数が増えればさらに訓練や指導によって変化しうる項目と変化しない項目とが明確になるものと思われる。また,今回の研究で森式チェックリスト改訂版による予測と9歳以後の実際の状態が一致しない症例(例外)が2例認められた。1例は家族性・進行性難聴が疑われる症例であり,他の1例は聴力レベルが100dBHLをこえるろうの症例であった。これらの症例は,森式チェックリスト改訂版を適用できない症例が存在する可能性を示している。今後の研究ではその適用基準を明確にしていく必要があろう。今後の課題としては 1.モデル1構築のために,改訂版で示した総得点の妥当性を検討すること, 2.モデル2構築のために訓練や指導によって変化しうる項目と変化しない項目を確定すること, 3.森式チェックリストの適用となる症例の基準を明確化すること,この3点が考えられた。
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