シュテンデ(身分制地方議会)改革史に焦点を定めた昨年度の研究に続いて、本年度はシュテンデの基礎をなすゲマインデ(コンミュン)財政に関する史料の調査と検討を行った。その結果次のような新知見を得た。つまり、ヨーロッパ社会における自由と自己決定の社会形成の原理は、何よりも教区=ゲマインデ・レヴェルにおける財政的自立を前提にその上に目的連合として具体的な地域形成、維持の目的のために幾つかの教区=ゲマインデが租税連合を形成していくところから始まること。しかもその目的毎の租税連合がデストリクト委員会となって、各教区=ゲマインデ代表の選出から構成され、自治的代表制を下から積み上げていること。つまり、租税連合と自治的代表制によって、教区=ゲマインデ-クライス=オーバー・アムト-ラント-ブント(連邦)として「下から」連邦制国家が形成されていること、これである。その成果は、F.リストのゲマインデ財政論を検討することによって、以下の論考として発表した(「三月前期西南ドイツ・リストの財政改革論-租税連合=連邦制国家を展望して-」『文化』第58巻第1・2号 1994年9月刊行) なおこのような基本構造は、単一制の国家、英仏にも貫徹していること。さらに、今日の連邦制の小国であるデンマーク、ベルギー、スペイン、オーストリア、オランダ等々については、このような基本構造の上に連邦共和制から自由な立憲君主制に及ぶ歴史的な形成物が擁立していることを確認しつつある。来年度は、自由な立憲君主制が成立しうる基礎としての次知的代表制ないし租税連合について、その実証的基礎を固めていきたい。
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