研究概要 |
本研究は、従来のアメリカ大衆文化史研究の演繹的方法の陥穽を批判的に乗り越えようとするものである。すなわち、まず1920〜30年代に制作・発表された膨大な量の個々の大衆文化テクスト(小説/映画)の具体的な主題とその表象方法を項目別に整理・分類する。しかも、そのとき、そうした個々のテクストが、それ固有の表象史(大衆文学史/映画史)という文脈のなかで、どのような変成作用をこうむっているかという観点を導入する。つまりわれわれの帰納的方法には、まず二つの大きなパラメーターがある。ある大衆文化テクストが同時代のなんらかの新しい社会的主題に取り組み、それを表象しようとするとき、それは同時代の現実社会固有のパラメーターと,大衆文化テクストの表象の歴史それじたいが形成してきた表象の規則というパラメーターが認められる。従来のアメリカ大衆文化史研究に欠落してきたのは、まさにこの後者の表象史の固有性というパラメーターをどのように社会史に組み込むかという問題設定である。この問題設定の欠落ゆえに、従来の大衆文化史研究は、肝腎の大衆文化テクストの理解の精度そのものに大きな難点があった。そこでわれわれはまず個々のテクストに回帰し、その具体的な主題を計量化することから出発する。そのうえで、同時代の社会を動かす主因たる政治・経済・思想のパラメーターを補正的に導入することで、われわれの帰納的方法に演繹的修正を加えるのである。国家の進む方向を規定する主因は政治と経済だが、その方向に明確なヴィジョンをあたえ、国家構成員たる大衆を情緒と想像力の水準で実際に動かすための動機形成をするものが大衆文化テクスト(小説/映画等)である。その大衆文化テクストの固有の表象の規則と、社会の動きとのダイナミズムこそ、いまだ未解明の部分の多い研究領域なのである。
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