本年度は文化財のおかれた現状を把握するためにUnescoのBulletion とThe International Founadation of Art Reserch のStolen Art Alertの分析をおこなった。その結果盗難、破壊の危機にさらされた各国文化財は相当危機的な状況にあることが判明し、これに対してアメリカを中心とした判例、ECにおける商品の自由流通と文化財取引規制調和の試み、さらには文化財保護目的での刑事罰導入の動きの面で注目すべき展開が見られることが明らかになった。また盗難文化財の件数は年々増加しているのに対して、再発見された文化財は極めて少数にとどまっていることも明かとなった。10月12日13日の両日に東京で開催されたアンコール遺跡救済国際会議の際、世界博物館評議会が配布したカンボジアのアンコール歴史地域から盗まれた諸文化財のカタログはこのことを象徴的に示すものであった。ところで本研究を背景にして同会議で採択された東京宣言とその際に決定されたアンコール救済支援策をみるならば、その国際文化財保護法上の画期的な意義が明かとなる。すなわち戦争、盗難の危機にさらされている同遺跡に対して日本をはじめとする各国及びユネスコ等の諸機関が資金面、技術面で貢献することを約束したことは、文化財の国際的保護が地域を超えて広がりつつあることが明かとなるし、またその必要が明かとなるからである。来年度は、国際法的な観点からの考察を進めることによって取引法上の規制との有機的な連関をさぐる予定である。
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