今年度は、前年度に得られた成果、すなわち文化財がおかれた現状分析をふまえたうえで、国際法上の文化財保護規制の状況とその限界を探ることを目標として研究を進めた。その際、実定国際法上の規制にかかわる問題群として、(1)自然破壊及び環境汚染に対する文化財保護規制、(2)海底所在の文化財保護規制、(3)戦時の文化財保護規制を取り扱われた。詳しくいえば、(1)では都市化・工業化と文化財保護の関係、観光化の波と文化財保護の関係、そして自然災害と文化財保護との関係が、1972年ユネスコ文化自然遺産保護条約を基礎として検討された。(2)に関しては、1982年国連海洋法条約と1984・5年の海底遺産保護に関するヨーロッパ条約草案が主たる検討対象とされた。(3)に関しては、とりわけ1954年のユネスコ条約および1977年のジュネ-ブ議定書が重要であった。以上の検討をふまえた上で、現在の法規制の不備を補うことを目的として、世界「共通文化財」概念を構築し、法理論化出来ないかを検討した。 なお上記の問題群は予想を超えた広がりをもつものであり、その結果、破壊された文化財の現状回復や、持ち去られた文化財の返還請求は扱うことが出来ず、今後の課題として残ることになった。この問題はたとえばヨーロッパではロシアとドイツの間の外交問題として現在激しいやりとりが展開されており、冷戦秩序崩壊後の重要問題として早急な検討が必要である。
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