まず初年度は、ユネスコおよびFARの出版物を利用して各国の文化財がおかれている現状を明らかにした。さらにアメリカを中心とした判例、ECにおける商品の自由流通と文化財取引規制調和の試み、さらには文化財保護目的での刑事罰導入の動きの面で注目すべき展開がみられることが明かとなった。 その上で2年目は文化財保護に関する国際法の現状とその問題点を、自然災害及び都市化と文化財保護の関係、海底所在の文化財とその保護、戦時における文化財保護の3つの領域に分けて検討した。第一の問題点に関していえば、1985年のヨーロッパ建築遺産保護条約が重要である。またユネスコの1972年の文化自然遺産保護条約は我国も批准してその登載リストは有名である。第二の問題点に関していえば、実定国際法規は極めて乏しい状況にあり、重要なのは1982年の国連海洋法条約が排除する国際慣習法とは何か、という問題である。なお1992年国際法協会カイロ会期の文化財保護法規部会の作成になる条約草案も注目に値する。第三の問題点に関しては、今世紀になって以来、理論的な面でも実定法規の点でも国際法の発展は注目すべきものがある。その中でも特に注目すべきは1954年のユネスコの軍事衝突の際の文化財保護条約であり、また1977年の二つの議定書である。ただこの分野でも、個々の規制の間に矛盾がある。 結局、規制の不十分な分野や矛盾をはらんだ分野があるため、これらをカバーするため世界共通文化財なる概念を進展させてゆくべきではないか、と思われるのである。
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