本研究の目的は、ドイツ帝国刑法典の生成の過程につき、18世紀後期-19世紀前期に展開された普通法時代のドイツ刑法理論及び各ライントの様々の立法を素材にして、直接資料を駆使して実証的に分析・考証を加えることにあった。当時に特筆すべき立法は、1794年プロイセン普通ライト法であるが、本法は、近代的刑法とは未だ言い難く、近代的な刑法の成立は、その後の立法の発展を俟たなければならなかった。従って、立法的にも、この時期から帝国刑法典成立までの時期に対する考察が極めて重要であり、現代刑法学の深い考察にとって不可欠である。即ち、19世紀前葉におけるドイツ・ラント刑法の沿革、特に、結果的に帝国刑法典と化した1851年プロイセン邦刑法典の立法過程に対する研究は重要である。本研究は、このことにつき、プロイセン邦における数次のライト刑法草案及びそれをめぐる当時に立法資料などの直接的な文献・立法資料を渉猟・駆使することによって、実証的に解析を加えることに努めた。新たに入手し利用した資料は、当時の種々の理論書のほか、今船復刻された「19世紀ドイツラント刑法典編纂史料」、「プロイセンラント法改正史料」や、ゼロックスコピーやマイクロフィルムで入手したプロイセンライント刑法1828年草案から同1850-1851年草案に至るまでの全草案及び理由書や、枢密院及び身分制議会などにおける種々の審議録などである。これらの資料に基づく研究は、帝国刑法典の原型となった1851年プロイセン刑法典の立法史及びその背景にある刑法史に関して、新たな視点と知見を与えるものであった。
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