本年度の主な成果は、ホール効果とマイクロ波吸収の測定により高温超伝導体では渦糸の内部の電子エネルギー構造自体が通常の超伝導体とは大きく異なっていることを初めて実験的に示したことである。我々はまずマイクロ波吸収を磁場中で精密に測定できる装置を作製し高温超伝導体の渦の粘度の測定を行った。この際使用したマイクロ波の周波数は渦糸のピニング周波数よりも圧倒的に大きいためほぼ完全にピニングの影響は無視でき渦のコア内部の情報を知ることができる。この実験の結果により高温超伝導体の渦の粘度は通常の第二種超伝導体よりも二桁以上大きいことが明らかになった。超伝導体の渦のコア内部は常伝導状態にあるが、この実験事実は高温超伝導体の渦のコア内部でほとんど電子散乱が起こらないことを意味し、渦コア内部に束縛されている電子のエネルギーの量子化がほぼ完全に起こっていることを意味している。通常のいかなるクリーンな超伝導体でもこのような領域には到達することは不可能であることから我々は「スーパークリーン領域」という新しい量子領域が超伝導体には存在することを示した。この事をさらに明らかにするために我々はホール効果の測定を強磁場中で行った。この実験から高温超伝導体の渦は低温では電流とほぼ平行に流れることを示した。通常の超伝導体では電流に対して渦は垂直に流れることからホール効果の測定結果もマイクロ波の結果を支持していると考えられる。以上の実験結果は高温超伝導体では渦のコア内部のエネルギー量子化のためにピニングが弱くても通常の超伝導体よりも渦は極めて動きずらい事を意味する。この事実は高温超伝導体のデバイス化、例えばフラックスフロートランジスター等への応用には不利な方向に働くが磁石として使用するさいにはむしろ有利な方向に働くことを意味している。
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