この研究は、太陽活動が地球の成層圏・対流圏環境にどのような影響を与えているかを解明することを目的としている。この分野の研究は従来より多くの研究者によって行われて来たが、特に数日オーダーの短期的現象に対して大気環境に何らかの影響が現れるかどうかについては、未だに良く分かっていない。そこで北半球の中緯度帯の代表としての日本と、太陽地球系現象が端的な形で現れる南極昭和基地におけるレ-ウインゾンデ観測データをデータベース化し、色々な太陽地球系現象について統計的解析を行ったところ、太陽フレア活動に伴う太陽地球系現象(フレア、太陽プロトン現象、宇宙線Forbush Decrease、地磁気活動など)に対して、対流圏、成層圏とも1度C内外の温度変化が現れることが示唆された。中でも高い相関が得られるのは太陽プロトン現象であり、地球極域への高エネルギー粒子入射が太陽活動と気候変動の関係を解明する鍵を握っているようである。温度変化は多くの場合成層圏では上昇、対流圏では下降方向に現れるが、温度変化の大きさや向きは、SOIやQBOなどのグローバルな大気循環現象と若干の相関があるようである。日本における観測データの予備的解析からも、同様のことが示唆される。以上のことから、太陽プロトン現象などの太陽地球系現象に伴って極域の大気大循環が変化し、その影響が高緯度帯だけでなく日本のような低・中緯度帯まで及んでいることが推察される。しかしそのような変化をもたらす物理過程を明らかにするためには、今後南極全域を始めとする全世界の高層気象観測データの解析と併行して、高緯度帯の成層圏・対流圏大気において、太陽活動に伴って何が起こっているのかを観測的に確かめ、それがどのようにしてグローバルな大気大循環に影響を及ぼしているのかを解明する必要がある。
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