有機結晶における結晶構造の規制あるいは分子の配列規制に関し、orthogonal aromatic-triad strategyという新たな概念を提出した。この概念の基本は相互作用部位と機能部位を直交させておく点である。前者が相互作用ネットワークを形成すれば、それに直交している後者は必然的に積層カラムを形成し、生じた空孔には分子認識の原理に従って種々のゲスト分子が包接されるであろうということである。具体的にはアントラセンのビスレゾルシン誘導体(ホスト)をモデル化合物として合成した。このものを適当な極性溶媒(ゲスト)から再結晶するとホスト-ゲスト1:2の共結晶が単結晶として得られる。このもののX-線結晶構造において以下のことが判明した。(1)ホストにおけるアントラセン環とレゾルシン環はほぼ直交している。(2)ホスト分子は水素結合ネットワークを形成し、これに応じてアントラセン環が強制的に積層カラムを形成する。(3)生じた超分子的な空孔には2分子のゲスト分子が主に水素結合を駆動力として取り込まれる。(4)共結晶を別の溶媒に浸すと容易にゲスト分子の交換が起こる。これらのことがらはorthogonal aromatic-triad strategyが結晶構造の予言と設計に極めて有効であり、機能性の有機材料の開発にあたって一つの設計指針を与えるであろうことを示している。
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