本研究は合成化学上極めて重要な活性中間種であるフェニルカチオンの構造と反応性に関して置換基による新しい共役安定化機構の本質を解明するために行った基礎的研究である。 1.種々の置換基を有するフェニルカチオンの構造最適化計算を半経験的分子軌道法およびab initio法を用いて行った結果、メタ位に電子供与性の置換基を持つフェニルカチオンほど安定で平面から捩れた構造を持つことが明らかとなった。メタ位置換フェニルカチオンは芳香族安定化に必要な"平面構造"をとるよりも、メタ位置換基と陽イオン中心部位との間の直接的な共役安定化に必要な"非平面構造"をとることによってより安定なエネルギー状態を取り得ることが明かとなった。 2.2-クロロプロピルベンゼンの光加溶媒分解反応において、2-プロピルフェニルカチオンを中間体とする2-プロピルベンゼンジアゾニウムイオンの熱分解反応の場合と同様の生成物が得られ、光加溶媒反応においても同様なカチオン種が中間に生成するものと考察した。 3.種々の置換フェニルクロリドやトリフラートの光加溶媒分解反応において、2種の生成物の生成比に及ぼす溶媒の水素供与能と求核能、メタ位置換基の電子供与能、および脱離基の電子親和力の影響を調べた。光加溶媒分解反応では、反応初期に生成する置換フェニルラジカルからの反応と、電子移動反応で生成する置換フェニルカチオンからの反応が競争的に進行することを考察した。 4.オルト位に水酸基を有するクロロベンゼンの光加溶媒分解反応では溶媒の酸性度の違いにより、中間体のオルト置換フェニルカチオンへの求核攻撃と5員環への環縮小反応とが別々に進行することを計算化学的および実験化学的に明らかにした。現在これまでの研究成果をまとめて論文発表を準備中である。
|