研究概要 |
trans-M(CO)_2((syn-Me_8[16]aneS_4)(M=Mo,W)と過剰のMeOTfとの反応で3級スルホニウムイオンを含むクラウンチオエーテル錯体trans-{M(CO)_2(syn-Me_9[16]aneS_4)}OTf(1a,M=Mo;1b,M=W)を合成した。1aはX線構造解析を行い、Mo-s結合距離の比較から3級スルホニウムイオンが強いpi酸であることを確認した。一方等モルのHOTfによるプロトン化で生成する2級スルホニウムイオンはさらに強いpi酸性を示し、反応は脱カルボニルを伴って進行しtrans-{M(CO)(OTf)(syn-Me_8H[16]aneS_4)}OTf(2a,M=Mo;2b,M=W)を与える。これらモノカルボニル錯体は過剰のHOTfで中心金属がプロトン化され八配位ジヒドリド錯体{MH_2(CO)(OTf)(syn-Me_8H[16]aneS_4)}(OTf)_2(3a,M=Mo;3b,M=W)を生成する。両者の構造はx線解析により決定した。2つのヒドリドとCO配位子は環炭素に囲まれたcavityに存在し、3bでは2つのヒドリド配位子がSSC面上に配位したbicapped Oh構造をとるのに対して、3aでは一つのヒドリドはSSC面にcapし他方はC-S稜上に位置している。 上記Mo(0)錯体とは異なり、Mo(IV)錯体trans-Mo(S)_2(syn-Me_9[16]aneS_4)(4)では配位クラウンチオエーテルの硫黄原子の求核性が低下している。事実4と過剰のHOTfとの反応では一つの末端サルファイドのみがジプトロン化され、脱H_2Sを伴ってtrans-{Mo(S)(OTf)(syn-Me_9[16]aneS_4)}OTf(5)を与える。また、HBF_4との反応ではtrans-{Mo(S)(F)(syn-Me_9[16]aneS_4)}BF_4(6)と{Mo_2(mu-S)(S)_2(syn-Me_9[16]aneS_4)_2}(BF_4)_2(7)が生成する。7はX線構造解析とそのモデル化合物のEHMO計算から直線S=Mo-S-Mo=S骨格をもつ共役系であることが判明した。架橋サルファイドは通常屈曲構造をとり、従って7の直線架橋サルファイドは非常に珍しい例である。この合成法は材料として期待されるさらに長い共役系金属サルファイドの設計の基礎となると思われる。
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