本研究では、下地の基盤にf.c.c.構造のRh単結晶表面を用いて創製したf.c.c.構造の鉄薄膜の電子状態密度について、膜厚とともに変化する様子を角度分解型光電子分光法によって詳細に測定した。その結果、一層目の鉄薄膜は下地との相互作用によってフェルミ準位直下の状態密度が消失することが明らかになり、水素の特異な吸着状態の出現の原因となっていることが解った。二層目からはf.c.c.構造に対応した分散関係を示す電子状態が層の厚みとともに成長するが、8層目以上になると分散の度合が小さくなり、表面構造の変化に対応して異なる電子状態に移行していくことが明かとなった。 さらに、フロンテイア軌道となるフェルミ準位近傍の電子状態密度を調べるため、角度分解型の逆光電子分光法の製作を行った。現有の超高真空装置の機能を生かしたまま、空電子状態密度を測定するために、分光器はコンパクトにして直線駆動機構によって試料に近づけて放出される光の取り込み立体角を大きくするとともに、電子銃が試料の周りで回転するようにし、角度分解型の測定ができるように工夫した。このため、カソードから熱電子を取り出すレンズをトリオードに設計して、低エネルギー領域で高い電流密度と高いエネルギー分解能をもつ電子銃の試作と、CaF2の窓材とチャンネルトロンの組み合せによるバンドパスによって9.8eVのエネルギーの光を幅0.6eVで検出する高感度の光検出器の開発を行った。電子銃からは0.5μAの電流密度が得られたが、今後さらに電流密度を大きくすることが課題である。また、検出器には信号以外の漏れ電子が混入することが判明したため、シールド用の円筒を新たに製作して改良を試みている。完成次第、相互作用でフェルミ準位の上に存在すると予想される表面電子状態密度を測定することによって、フロンテイア軌道と表面反応との関わりを明かにする。
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