研究概要 |
溶液内反応において電荷密集型分子集合体は複雑な対イオン結合挙動を示すが、その第一要因は表面に形成された強力な静電場である。イオン-イオン間の静電的相互作用の集積に基づくこの特性は多様な形態の高分子イオン群に共通しており、これらの反応場形成と深く関連している。この高分子イオン系のイオン反応への静電効果を定量化するために、高分子イオンマトリックス近傍に外部溶液相とは異なる"高分子電解質相"を仮定する"2相モデル"を用いた。すなわち、この2相間の対イオン分布をDonnan則に基づいて考察した。本年度は、1)弱酸性高分子イオン(カルボキシメチルデキストラン(CmDx)、および、カルボキシメチルデキストランゲル(CM-Sephadex))の酸解離定数を解離度および添加塩濃度の関数として表現し、各条件下での"Donnan電位"および"Donnan相体積"を決定した。更に、2)高分子イオン一対イオン結合平衡の微視的情報を得るため、各Na塩試料の^<23>NaNMRを測定した。ピークの広幅化から得られたNa^+イオンの対イオン濃縮相への濃縮度は、熱力学的に得られた静電因子とよい相関を示した。最後に本研究課題の最終目的として、3)弱酸性高分子イオンの金属イオン結合平衡を"Donnanモデル"に基づいて解析した。すなわち、カルボキシル基系高分子イオンと2価金属イオン(Ca^<2+>,Cu^<2+>,Cd^<2+>)の錯平衡を外部溶液相と高分子電解質相間の遊離金属イオンの分配平衡と高分子電解質相内の本質的錯平衡の2段階にわけて表現した。CmDxおよびCM-Sephadexの錯平衡の解析により、2価金属イオン(Ca^<2+>,Cu^<2+>,Cd^<2+>)錯生成系では1:1錯体生成が優勢であることがわかった。また、その本質的安定度定数はそれぞれのモノマーアナログ配位子(アルコキシ酢酸)錯体の安定度定数とほぼ一致した。
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