本研究は萌芽的研究として、申請し採択された。本研究の当初の目的は、介形虫の背甲に見られる感覚子の機能を、その形態と行動パタンの観察とを通して推定することにあった。介形虫の運動パタンと行動様式とを観察するために、交付された補助金によって、ヴィデオ観察装置を購入した。この装置の中には暗視撮影装置も含まれたが、試みに夜間に野外でウミホタル(介形虫の一種)の発光パタンを観察してみたところ、興味深い事実を見いだした。それは、ウミホタルの雄が求愛シグナルとして、海底から海水表面に泳ぎあがってきて、螺旋旋回をしながら発光するというものであった。そこで、感覚子の機能形態に関する研究の一環として、ウミホタルの感覚受容器にみられる性的二型現象の研究を始めた。本種では、第一触角の剛毛の数に、性的二型が顕著にあらわれているが、第一触角または化学受容器でもあり(近年、他の甲殻類でも化学受容器の機能形態学的研究が進展をみせている)、水槽内で餌を与えると、第一触角をぴんと前方に張り出して化学的刺激を受容しようとするのが見られる。剛毛の数の差は、受容能力にも影響を与えると推察されるため、摂餌行動に雌雄の差が見られるかもしれない(今後の課題のひとつ)。 ウミホタル生物発光の同種内シグナルとしての生態学的意義は、本研究費により実現した瀬戸内海・九州地方の介形虫採集調査旅行の過程で明らかにすることができた。またウミホタルの場合には、生物発光と心臓の発達との間に思わぬ関係があることが分かった。これらの成果は、アメリカ動物学会、日本古生物学会での講演、および論文と著書によってその一部を報告した。
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