緑藻クロレラではピレノイドとその周囲のデンプン鞘(ピレノイドデンプン)が、低いCO_2濃度条件で発達する。クラミドモナスでもピレノイドデンプンの発達が知られていた。しかし、これまでピレノイドの発達は電子および光学顕微鏡観察によるもので、その生化学的な解析はほとんど行なわれていない。そこで、まず、光学顕微鏡を用いて、ピレノイド自体の大きさを測定したところ、5%CO_2濃度で生育した細胞(高CO_2細胞)のピレノイドの直径は1.11μmで、通常の空気で生育した細胞(低CO_2細胞)のそれは1.69μmであった。この値は、ピレノイドを球形と仮定すると、低CO_2細胞のピレノイドは、高CO_2細胞の約3倍に増加していたことになる。そこで、この増加が、中身が変わらず単に大きさだけが増大しただけなのか、それとも何らかの物質が入ってきて大きくなったのかを調べるため、これまで進めてきたピレノイドの単離技術をさらに改良した。単離ピレノイドを顕微鏡で数え、ピレノイド1個あたりのタンパク質量を求めたところ、高低両CO_2細胞のピレノイドはそれぞれ5、12μgであった。この結果から、低CO_2細胞におけるピレノイドの増大はタンパク質がピレノイドに入ることによることが明かとなった。高低両CO_2細胞ともピレノイドの主成分はRubiscoであった。 クラミドモナスにはRubisco小サブユニットの遺伝子は2つ存在する。低CO_2条件に移した時、rbcS2の発現は高CO_2条件と変わらなかったが、rbcS2の発現はむしろ抑えられた。また、クロラムフェニコールを処理した場合にも低CO_2条件下でピレノイドの発達が見られた。以上の結果から、低CO_2条件下でのピレノイドの発達は、既に合成され葉緑体内に存在するRubiscoがピレノイドに集まることによるものであることが推定された。
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