真核生物の鞭毛・繊毛の多くは、「9+2」構造、即ち一対の中心微小管を9本の周辺微小管が取り巻いた構造をしている。各々の周辺微小管は、外腕・内腕・スポークを持ち、隣接する微小管とネクシン・リンク(以下ネクシンと略す)と呼ばれる構造でつながれている。これまでの研究によると鞭毛運動の制御には、ネクシンが重要な役割を果たしていると考えられる。具体的には、ネクシンが微小管と一定の位置に結合していてその弾性抵抗により滑りを制限するという説がある。本研究は、ネクシンの超微細構造の解析、および鞭毛運動中の構造的変化を手がかりに、ネクシン・リンクの機能の解明に寄与しようとするものである。平成5年度は、エラスターゼ処理をした、ウニ精子鞭毛軸糸における滑り運動がCa^<2+>濃度の変化によりどのような影響を受けるかについて検討し、形態観察に用いる条件の決定を試みた。エラスターゼ処理をした軸糸断片では、ネクシンはほとんど壊れずに残っているのだが、ATPの存在下で滑り運動が見られる。エラスターゼ処理条件によっては、軸糸内の1ケ所か2ケ所でのみ起こるような滑り運動が見られる。この滑り運動は、屈曲形成に際して必要な制御の機構を反映していると予想される。滑り運動に対するCa^<2+>の影響を調べた結果、Ca^<2+>freeでは滑り速度が約6μm/secであるのに対し、濃度が高くなる(pCa4)と、滑り速度はより低くなるらしいことがわかった。Ca^<2+>濃度がとても高い(pCa3)ときには、ダブレット微小管の3番側の滑りが抑制されるらしいことがすでにわかっているが、今回の結果は、3番の反対側の7番や8番の滑り運動もCa^<2+>によって抑制される可能性を示唆する。構造解析によりネクシンの機能について新しい知見を得るには、解析の対象となる鞭毛軸糸の状態が運動状態を反映したものであることが必要である。そこで、構造の解析を行う前に、滑り速度に対するCa^<2+>の効果がネクシンに関連したものであるかどうかを明らかにする必要があることがわかった。
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