研究概要 |
真核生物の鞭毛・繊毛の多くは,「9+2」構造,即ち一対の中心微小管を9本の周辺微小管が取り巻いた構造をしている.各々の周辺微小管は,外腕・内腕・スポ-クを持ち,隣接する微小管とネクシン・リンク(以下ネクシンと略す)と呼ばれる構造でつながれている.これまでの研究では,ネクシンが屈曲形成により重要な役割を果たしていると考えられる.具体的には,ネクシンが微小管と一定の位置に結合していてその弾性抵抗により滑りを制限するという説がある.この説を検証するには,ネクシンの構造に関する知見が必要だが,電子顕微鏡観察では他の構造と重なって観察しにくく,詳細な研究はなされていなかった.本研究では,クラミドモナス及びウニ精子の鞭毛を用いて軸糸の構造をネクシンの形態に注目して解析することにより,ネクシンの機能に関する知見を得ることを目指した.平成6年度には,除膜した軸糸で必要に応じて腕を選択的に取り除いた後,電子顕微鏡で観察した.その結果,ネクシンの構造は,ウニ精子とクラミドモナスでは差は認められず,周辺微小管のn番からn+1番に向かってみた場合,常に基部側に傾いていた.ネクシンの微小管との結合位置は明らかにできなかったが,仮にA小管とB小管とをつないでいるとして距離のずれを測定したところ,ネクシンのB小管に対する結合部位は固定的なものではなく,鞭毛の屈曲運動に伴って変わりうることを示唆する結果を得た.この時,ネクシンは微小管に対して一定の角度を保っているが,腕を抽出して微小管の間隔が30nm以上になると,A小管と結合したままB小管との結合が離れた.このことは,ネクシンが弾性的性質により微小管同志の能動的滑りに対する抵抗となるのではなく,ネクシンと腕とがカップルした結合・解離サイクルが屈曲の形成に関与している可能性を示唆するものであり,これは今後の鞭毛運動制御機構に重要な情報を提供する.
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