神経修飾作用は動物行動の長期的変化、例えば、動機付けのレベルの変化などに重要であると考えられ、生物学的に意義のある現象である。近年、脳内に各種の神経ペプチドが発見され、それらが神経伝達・修飾物質として働く可能性が示唆されているが、ペプチド作動性ニューロンがNeuromodulatorとして働くめに備えている、その細胞レベルでの性質(個々のニューロンの電気生理学的性質、形態、ペプチドの放出様式およびその制御など)についてはまだ殆ど調べられていない。そこで、私は小型熱帯魚の脳の終神経GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)系を利用した効率的な実験系(全脳in vitro標本)を開発した。まずこの系を用いて、終神経GnRH細胞が内因性のペースメーカー電位を発生しており、個体の生理的な状態を反映してその頻度やパターンを変更し、それを同時に多数の脳部位に伝えて標的脳部位に存在するニューロンの興奮性を一斉に変えているのではないかと考えられるような結果を得た。このことから、Neuromodulatorとして働く神経細胞自体のイオンチャンネルが血中のホルモンなどによって修飾されるという、全く新しい仮説を提唱した。次に細胞内記録法により、終神経GnRH細胞の自発放電の原因となるペースメーカー電位のイオンメカニズムを検索した。その結果、ペースメーカー電位の発生には、活動電位発生に働く従来のナトリウムチャンネルとはTTX感受性・カイネティクス等の異なるナトリウムチャンネル、I_<Na(slow)>が重要な働きをしているらしいことが示唆された。さらに、このイオンチャンネルの性質をパッチ電極を用いたホールセルボルテージクランプ法で解析し、その性質を明らかにした。また、このチャンネルがノルアドレナリン等により修飾されるという結果を得つつあり、今後その細胞内情報伝達系について解析する予定である。
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