本研究は、現存する加工技術の中には存在していない生物的加工法の可能性を検討しようとするものである。すなわち金属を「食べる」特殊なバクテリアを用いて金属の微小・精密加工を行うことを目的としている。そのためにまず、独立栄養細菌の一種であるチオバチルス・フェロオキシダンスの培養法を確立するとともに、この培養液を用いて金属の加工実験を行った結果、基本的に加工が可能であることが、判明した。われわれは、これを「バイオマシニング」と命名した。加工領域の特定には加工パターンをフォトリソグラフィの技術を用いて工作物上にレジストをつけることとした。その結果、工作物を培養液中で適当に振盪してやれば、加工時間に比例して加工量が増加することが明らかとなった。その加工速度は純鉄で14μm/hr、純銅で20μ/hr、黄銅で18μ/hrという値が得られている。次に、電界や磁界の影響を調べた結果、磁界は加工結果に影響を及ぼさないが、適当な電界をかけると加工速度が急激に大きくなる現象が見られた。われわれはこの方法を「電界アシステッドバイオマシニング」と命名した。電界アシステッドバイオマシニングでは、電気条件の設定によっても加工量をコントロールできるので、実用上きわめて有利である。また適当な電極を用いれば、指定した位置の加工も可能である。以上の実験結果により、バクテリアを用いて金属を加工することは、基本的には可能であることが明らかとなった。今後遺伝子レベルでの解明が進めば、自律分散型の超小型ロボットを用いたバイオマシニングの可能性があり、研究の展開が期待される。
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