研究概要 |
本研究は,液晶のトライボロジーへの応用を前提として,潤滑剤としての液晶の特性を検討し,新しい潤滑の可能性を探索する目的で行われた.その中でも特に,電場印加による液晶潤滑膜の力学的性質の変化の可能性に着目し,摩擦のアクティブ制御の可能性の追及に重点を置いた.そして,流体潤滑と境界潤滑という二つの潤滑形態を想定して,主に実験による検討を行った. 流体潤滑では,潤滑剤の粘度が摩擦係数を決定する支配的な因子となることが知られている.よって,流体潤滑で作動するすべり面中の潤滑剤の粘度を外部から制御することができるならば,間幸のアクティブ制御が可能になると考えられる.ネマティック液晶は,電気粘性効果を発現する物質であることが古くから知られているが,その摩擦面への適応性を調べるために,共軸二円筒型回転粘度計を用いて,その基本特性を調べた.p型液晶についてのみ電気粘性効果が確認され,単純なモデルに基づく理論解析によって,その現象のメカニズムの大枠が明らかとなった.またその解析によって,電気粘性効果に及ぼすせん断速度の影響か推算され,摩擦のアクティブ制御を実現する潤滑剤として,液晶は有望であることが示された. 境界潤滑では,その多様性のために,流体潤滑のような体系的な理論は存在せず,摩擦係数がどのような因子によって支配されるかを一概に定めることはできない.そこで,低すべり速度,高接触圧力の摩擦面を実現する,既存のT型振子式摩擦試験機および試作したpin/disc型摩擦試験機を用い,主に摩擦係数に及ぼす境界膜への電場印加の影響を実際に調べた.特に後者の試験機を用いた実験では,摩擦面への直流電圧+60Vの印加によって,摩擦係数が40%程度低下する現象を見出した.これは境界潤滑においても,摩擦のアクティブ制御を実現する潤滑剤として,液晶が有望であることを示唆する.
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