本研究では、まずエネルギー転送のスイッチに用いるMOSFETのゲート入力端子で消費されるエネルギーの見積りを行った。ここでは従来のグラジュアルチャンネル近似による解析法に新たな横方向電界の項を付加し、より精度の高いモデルを構築した上で、それに基づく数値解析プログラムを作成した。このプログラムを用いてSOIデバイスをサンプルとして超高速スイッチングの数値解析を行った結果、チャージリサイクル法で回収できない本質的エネルギーは、従来の約3割程度にすぎず、残りはエネルギーとして回収し、結果的に約7割のエネルギーの節約が理論上可能であることを示した。 次に具体的なエネルギーパケット転送型論理回路として、「抵抗コンデンサ型」と「抵抗・コンデンサ・インダクタ」型の2種の回路を研究した。前者では、抵抗としてMOSFETスイッチを用い、入力に注入されたエネルギーが次第に減衰するのを再生する目的で「センス増幅回路」を挿入する方式を提案し、シミュレーションによって従来型の回路より高性能であることを示した。また後者ではさらにインダクタを挿入することでエネルギー転送時のエネルギーロスを最小化する条件を検討し、スイッチングのタイミングを調整することで高い効率でエネルギー転送が実現することを見出した。 以上の結果によりMOSFETスイッチを用いたエネルギー転送型論理回路のスイッチ制御エネルギーの下限、(2)抵抗コンデンサとセンスアンプの組み合わせによる実現法、(3)抵抗コンデンサ・インダクタによる実現法を検討し理論上の可能性と限界を明らかにした。
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