CuとCoのK吸収端近傍での異常分散項の変化により、多層膜からの散乱強度に比例するCuとCoの原子散乱因子の差の二乗はK吸収端近傍で大きく変化する。CoのK吸収端のエネルギー側では、原子散乱因子の差は大きくなり、CuのK吸収端の高エネルギー側では、その差は非常に小さくなる。この事実を応用し、CoのK吸収端から20eV低いエネルギー(A)と、CuのK吸収端から220eV高いエネルギー(B)との2つの入射エネルギーを使って、Cu/Co多層膜からの散乱強度の測定を行なった。先に述べた理由から、Aのエネルギーでは多層膜からの回折ピークは増幅され、4次のピークまで測定することができた。また、BのエネルギーではCuとCoの原子散乱因子の差はほとんど0となり回折ピークは観測されなかった。これらの結果から、原子散乱因子の差から予想される回析ピークの強度変化を定性的に確認した。現在、Bでの測定をAでの散乱強度のバックグラウンド強度として、差の強度をもとめ、本多層膜の濃度プロファイルの解析を行なっている。また、Aでの測定から、従来法で解析を行い、層間の濃度勾配及びCuとCoの膜厚の決定を行なった。ただ、高次のピークについてはこの従来法ではバックグラウンド強度とピーク強度を十分に分離決定することはできず、解析結果の誤差の原因となった。したがって、吸収端近傍での強度変化を組み合わせた本方法が、強度の弱い高次のピークにおいて非常に有効であり、高次のピークによって界面構造の形状がかなり大きく影響される多層膜材料の界面構造解析に、非常に有効であることが分かった。
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