X線によって多層膜の界面構造を解析する場合、多層膜を構成する元素が周期律表で近接しているとX線的に十分なコントラストが得られず、その結果多層膜間の干渉による回折ピークが著しく弱くなる。このような場合、X線的に解析する手段として、吸収端近傍での異常分散項の大きな変化を利用したX線異常散乱法が従来用いられていた。例えば、Cu/Coの多層膜では通常のX線回折法では十分な回折ピークが得られないが、Co K吸収端の低エネルギー側を利用すると見かけ上、両方の元素の散乱強度を大きくすることができる。その結果回折ピークを観察することができる。 一方多層膜からの回折ピークの特徴として、第一ピークは非常に強度が強いが、第2ピーク以降の高次のピークになると、吸収、偏光などの影響でその強度は著しく低下し、それに伴いピークとバックグラウンドのS/N比は著しく劣化する。ピーク強度が十分に大きい場合にはこの劣化はさほど気にならないが、X線異常散乱法を用いてようやく観察できる本系のような場合このS/N比の劣化による影響は深刻である。 そこで、本研究ではその対策として以下のような方法を提案した。すなわち、CuとCoのK吸収端近傍での散乱強度の差の変化を調べてみると、Co K吸収端近傍では回折ピークは見かけ上大きくなるが、Cu K吸収端近傍の高エネルギー側では、見かけ上のピーク値がほとんどゼロになる領域が存在するのが分かった。このことを利用し、この二つのエネルギー領域で測定した回折強度プロファイルを組み合わせて解析する方法を堤唱し、実際にCu/Co多層膜に適用し、非常に精密に高次の回折ピークプロファイルまで実験的に決定できることを実証した。
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