ベンゾイルフェニルウレア(BPU)系昆虫生育制御剤は、従来使用されていた殺虫剤とは全く異なった生理作用を示す化合物である。BPU系化合物であるクロルフルアズロン(CF)を処理された幼虫は、脱皮・変態時に異常を引き起こし死亡するが、幼虫期の処理により産下された卵に孵化阻害作用がみられたので、この生理機構を明らかにしようとした。実験には主にハスモンヨトウを使用した。(1)幼虫期(5令0日)のCF処理によるその後の繁殖に対する影響は、雌より雄で強くあらわれた。この現象は、同じ鱗翅目昆虫のコナガ(3令0日処理)でも認められた。(2)5令幼虫にCFを処理し、精巣体積を調べたところ、6令2日目から、無処理区に比べ、精巣体積が有意に減少した。6令期にCFを処理した場合には、6令3日目以降のCF処理では影響が認められなかった。従って、6令3日が精巣及び精子の発育に重要な時期であると考えられた。(3)5令幼虫期にCFを処理し、蛹・成虫期の精子(有核・無核)束数や精子の移動について調べたところ、CF処理虫では精子束数の減少及び精巣から輸精管への精子の移動時期の遅延がみられた。(4)CF処理による交尾行動への影響は認められなかったが、雌に渡される有核精子束数は、CF処理雄では減少しており、孵化率の低下と高い相関が見られた。(5)これら、精巣及び精子の発育へのCFの影響と、精巣エクジステロイド量とには高い相関がみられ、CFの孵化阻害作用は、精巣エクジステロイド量と関連があると考えられた。今後は、精巣エクジステロイド量の増減にCFがどのように関わっているか、更に詳細な研究を進める必要があると考えられた。また、エクジステロイドとCFとの関連を調べることにより、CF脱皮・変態阻害作用の機構についても解明できるのではないかと考えられた。
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