本研究ではThiobacillus thioparusのチオシアン分解活性の発現及び制御機構を解明することを目的として、菌体内のチオシアン加水分解酵素の量的変動及び本酵素の阻害剤に対する反応性を調べた。チオシアン加水分解酵素の比活性は、別の利用可能な生育基質であるチオ硫酸が存在することによって低下し、酵素蛋白質の細胞内レベルも高い相関で変動した。さらに酵素タンパクの合成も抑制されていることが明かとなった。以上の結果、本菌のチオシアン分解活性がチオ硫酸によって阻害されるのは蛋白合成での抑制に因るものであることが示された。今後は、分解酵素遺伝子の解析を進めることが、本研究で得られた成果をさらに発展させるのに有効であると考えられる。 本酵素活性は低濃度のシアン化物によって非拮抗的及び可逆的に阻害される。また、カルボニル基に作用するヒドロシイルアミンによっても阻害を受けることから、活性発現にはカルボニル基が重要な役割を持つことが示唆されている。そこでカルボニル試薬であるborohydride、およびシアンならびにチオシアンの構造類似体であるチオニトロベンゼンシアニド(TNBC)についてその阻害効果を調べた。その結果、本酵素はTNBCによって強く阻害されその部位は活性中心とは異なることが明かとなった。一方、borohydrideはシアン化物やTNBCとは異なる部位で阻害的に作用することが示された。シアン及びTNBCは本酵素に対しともにきわめて低い濃度で作用し、しかも基質と構造が共通することから、酵素の活性中心の近傍あるいは活性発現に重要な機能を持つ部位に作用することが考えられる。今後は、基質特異性などの検討を加え酵素化学的な解析も進め、本酵素の作用機作をさらに明かにすることが必要と思われる。
|