水の構造化を利用して、農産物の鮮度保持を行うための基礎的事項を知るために、(1)植物細胞レベルでの保存実験及び(2)NMR測定による水の構造化の把握を行なった。 (1)についてはオオムギ子葉鞘細胞細胞を用いた実験により、6℃でXeガス分圧を0.4〜0.5MPaとしたとき、細胞の生存率が100%となることが示された。この温度とXeガス分圧の組み合わせが、細胞内の水の構造化の程度を決定する要因である。一方、Xeガス分圧が0.5MPaを越えると細胞内にクラスレート水和物が形成されて細胞質構造が破壊されるため、生存率が低下することが判明した。また、オオムギ子葉鞘細胞に接種したうどんこ病菌の発芽管の伸びを指標とした実験により、温度8℃、分圧0.4MPaでXeガスを溶解させたうどんこ病菌の生長が抑制されたことが認められた。さらに、同じうどんこ病菌を大気圧下に戻すことにより、機能が回復されることが確認された。 (2)については蒸留水と蒸留水にXeガスを溶解させた溶液のプロトンNMRスペクトルの測定を行った。その結果、蒸留水のスペクトルは線幅が狭いのに対し、Xe溶液では液体であるにも拘らず線幅が極めて広く、一般に固体試料にみられる特徴を呈することが示された。さらに、Xe溶液の共鳴線の位置は蒸留水に比べて低磁場側へシフトしていることが明らかになった。これはXe溶液の緩和の機構が蒸留水とは異なっていることを意味しており、Xeガスの溶解により水素結合した水分子集団が増加したものと理解される。これによりXe溶液において水の構造化が促進されたことが確認された。 以上により、Xeガスの溶解により水が構造化されることが判明し、また、微生物レベルでの生長抑制ならびに植物細胞レベルでの保存が可能であることが示された。次年度は農産物への適用を図る予定である。
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