キセノンガスを溶解させて実現される水の構造化を利用して農産物の鮮度保持を行うために、平成5年度はオオムギ子葉鞘細胞を用いた細胞レベルの代謝抑制実験とNMR測定による蒸留水の構造化確認のための実験を行った。その結果、水の構造化が代謝抑制に効果的であることが示された。この知見を基にして、平成6年度は鮮度保持の対象を野菜とした実験を行った。以下にその保存条件と結果の概要を述べる。供試野菜はブロッコリおよびナスとした。ブロッコリは変色が激しいとされている野菜の一つであるので、主に保存中の変色の有無を鮮度保持の指標とした。ブロッコリを茎部の長手方向に切断して2つの試料とし、一方を大気圧下で通常の組成の空気で満たされた保存容器(2000ml)に入れて密封しして対照区とし、他方を同様の条件で密封した後、キセノンガス分圧が0.4MPaになるまで圧入してキセノン区とした。保存温度は279K(6℃)とし、これらを16日間保存した。保存終了時のキセノンガス分圧は0.34MPaであった。切断面の色は、キセノン区ではほとんど変化がなかったのに対し、対照区では明らかな褐変が認められ、キセノン区を基準とした切断面の色差ΔEは18.6であった。なお、花蕾の黄化については両試験区間に明瞭な差異は認められなかった。ナスは低温傷害を来す野菜の一つであるので、保存温度を288K(15℃)に調整し、ブロッコリと同様に対照区とキセノン区(キセノン初期分圧:0.4MPa)を設定して14日間保存した。保存前後の重量損失は両区とも無視できる程度であった。一方、累積呼吸量はキセノン区において対照区の約1/2に抑えられた。また、試料を切断した結果、対照区の試料には、種子およびその周辺に褐変が認められた。これらの結果により、本研究で用いた水の構造化の手法が野菜の呼吸代謝の抑制に効果的であることが示された。
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