研究概要 |
反芻動物の呼気中から排出あれるメタンの産生を制御するモデルとして,複胃をもち高繊維質飼料で生存できるように改良されたシリアンハムスターを用いて,このハムスターのセルロース分解吸収能について特性を明らかにし,また,ハムスターにおけるセルロース分解菌およびメタン産生菌の同定から,そのメカニズムについて基礎的な知見を得ようとした。 昨年度の実験では,飼料の利用性,とくに繊維質飼料の微生物発酵産物である揮発性脂肪酸について動物側の変動要因について検討したが,ハムスターの前胃および盲腸からは速やかに吸収されることが認められ,盲腸ではpH依存性であった。さらに,繊維質飼料のもとで選抜されたハムスター系統においては繊維質の消化性ばかりでなく粗蛋白質消化率が高まっていることを明らかになった。そこで今年度は,これらの動物側の反応が,セルロース分解菌やメタン生成菌との間にどのような関関連をもたらすかを調べた。 動物および飼料条件は昨年度の実験と同じであるが,選抜33世代に達したハムスターで2系統×2飼料×成熟雌6頭を用いた成績である。飼料切り替え2週間後に前胃,腺胃および盲腸よりサンプリングし,菌叢の分析に供した。2年目である今年度の結果は以下の通りである。 (1)対照で市販飼料で維持されるているハムスターの腸内細菌叢は従来の報告と同様で,好気性菌では前胃,腺胃および盲腸ともにStreptococcusが最優勢でそれぞれ10^<7.9>,10^<7.2>,10^<7.7>μg/g存在し,Enterococc-usやEnterobacteriaceaeが多い。また,嫌気性菌はLactobacillusが10^<9.3>,10^<8.2>,10^<8.5>μg/gと優勢で,Bifidobacteriumが10^<8.5>,10^<6.7>,10^<7.1>μg/g Peptostreptococcusが10^<8.1>,10^<7.5>,10^<7.6>μg/g Bacteroidesは10^<5.7>,10^<3.6>,10^<7.3>μg/gとなる。この菌叢は,アルファルファへの2週間程度の飼料の切り替えでは変化しない。 (2)これに対してアルファルファ飼料で選抜された系統は,菌叢が単純となり,好気性菌はSterptococcusが10^<9.2>,10^<6.9>,10^<8.5>μg/gと最優勢で,BacillusとStaphylococcusが認められるがそのほかの菌は認められない。嫌気性菌は,Lactobacillusが10^<9.7>,10^<7.3>,10^<8.7>μg/gのみが最優勢で,これ以外はほとんど検出されない。また,穀物飼料に切り替えても短期間では大きな変化は起こらない。 (3)これらの結果から,Bacteroidesなどのセルロース分解菌が検出されなかったことは繊維消化との関連では説明できないものであった。
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