神経系に存在する特定の糖蛋白に対するモノクローン抗体を用いて、免疫組織化学により検出されたラットの下垂体前葉の一部の腺細胞の免疫陽性反応を、実験形態学的に解析した。 1.免疫陽性反応は雌ラットの下垂体前葉に見られた。免疫陽性の細胞は、黄体化ホルモン抗体にも免疫陽性であったことから、ゴナドトロピン(GTH)産生細胞のサブポピュレーションであることが判明した。免疫陽性反応は分泌顆粒に限局し、分泌顆粒における抗体物質をimmuno-gold法により検出した結果、本研究が追求する免疫反応性は分泌顆粒に局在していた。雄の下垂体前葉のGTH細胞には問題の免疫陽性反応は認めなかった。 2.胎生期には問題とする免疫反応を呈する細胞は見られなかった。新生仔期以降性成熟後にいたるまで、性周期のどのステージにおいても、また、妊娠中にも泌乳中にも問題の免疫反応を呈する細胞が見られた。 3.卵巣摘出にともない、免疫反応性が消失した。卵巣摘出後エストロゲンを投与すると、陽性反応が回復した。雄ラットにエストゲンを慢性的に投与すると、本来存在しない免疫陽性細胞が出現した。一方、プロゲステロンとアンドロゲンはこの反応の動態に関与しないと考えられた。 4.免疫陽性反応はラット以外の一部の動物の前葉にも認められた。 以上の結果は、用いた抗体に特異的に反応する抗原物質は、性ホルモンの作用により、前葉のGTH細胞の一部において産生される、いわゆるestrogen-induced proteinの一つと考えられた。
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