我々は、マウスの尿中にはウリナスタチン抗体と反応し、トリプシン阻害活性を有する物質が存在すること、マウスの肝臓にはウリナスタチンのm-RNAが存在することなどを明らかにし、ウリナスタチン様物質の生物学的機能の検討においてマウスが適した動物であることを見いだした。更に、マウスの脳組織中では、ウリナスタチン様物質が学習、記憶と関係の深い海馬や大脳皮質が多く含まれていること、局在する錐体細胞で生成されている可能性などを発見した。 平成5年度においては(1)マウスの脳組織中に存在するウリナスタチン様物質の性状の解明と、(2)ウリナスタチン様物質と局在する錐体細胞の主要な神経伝達物質であるグルタミン酸との関係、(3)脳虚血処置によるウリナスタチン様物質量の変動を検討した。その結果、1)ヒト尿中のウリナスタチンとマウス脳組織中に存在するウリナスタチン様物質はともにトリプシン阻害活性とほぼ同じ分子量を持つものの、糖鎖の含有量、N末部分のアミノ酸配列などは明らかに異なっていることを認めた。2)マウスにグルタミン酸受容体作動薬を投与すると脳組織中のウリナスタチン様物質が増加すること、その増加がグルタミン酸受容体中のNMDA型受容体拮抗薬により抑制されることを見いだした。また3)脳虚血処置により海馬でのウリナスタチン様物質の可逆的な減少が認められた。その機作、生理学的機能との関連性及び脳組織中のウリナスタチン様物質の全アミノ酸配列の解明などが更に検討すべき点として残された。
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