本研究により、マウスの脳組織中では、トリプシン阻害活性を有するウリナスタチン様物質が 1)学習、記憶と関係の深い海馬や大脳皮質に局在していること、 2)これらの部位に注射針で機械的な障害を与えたところ、障害部位のウリナスタチン様物質局在神経細胞でのウリナスタチン抗体陽性反応が早期に、また強く認められることから、局在する神経細胞で生成されている可能性が高いこと、 3)不安ストレス負荷によって海馬での可逆的な増加がみられること、 4)グルタミン酸受容体作動薬の投与により海馬や大脳皮質で増加がみられ、その増加はNMDA型受容体拮抗薬により抑制されること、 5)脳虚血処置24時間後では海馬で減少が認められが、72時間後では回復が認められること、 などの成績を得た。 これらの成績から、脳組織に存在するウリナスタチン様物質は神経細胞の活動と密接に関係していることを見い出した。 またヒト脳脊髄液虫のウリナスタチン抗体反応陽性物質量は、痴呆群では非痴呆群より有意にすくないこと、また、その量が少ないほど痴呆が高度であることを認めた。 これらの成績から、ヒト脳脊髄液中のウリナスタチン抗体反応陽性物質は痴呆と密接に関係していることを見い出した。
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