研究概要 |
化学発癌過程における前癌や癌細胞の生化学的な特徴として種々の酵素のアイソザイム変換が認められている。しかし、一般にそれらのマーカー酵素は同一ファミリィーの他のアイソザイムと比較すると生化学的な特徴は見いだし難く、特異的発現の生理的な意義が不明で、「特異的なマーカー酵素には特異的な基質が存在する」との従来の暗黙の仮定とは合致しない。我々によって見いだされ、ラットの肝前癌マーカー酵素として多くの研究者によって活用されるに至っているグルタチオン S-トランスフェラーゼ P型(GST-P)(Gann 75,199-203,1984.,PNAS,USA.82,3964-3968,1985.)においても、10年近い努力にもかかわら特異基質は見いだされず、予期に反して基質特異性が低く、多くの阻害剤に対して高い抵抗性を示すのが特徴であった(Arch.Biochem.Biophys.285,312-316,1991.)。これらの性質は同一のPiクラスにに属するヒトGST-πにおいても顕著であった。一方、前癌や癌細胞において非特異的なアイソザイムの発現する例が、カルボキシエステラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、UDP-グルクロニルトランスフェラーゼその他の薬物代謝系phaseII酵素に多い事実が注目される。これらの結果は「癌化における非特異型アイソザイム発現仮説」として現在投稿中である。
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