研究概要 |
今年度は、ラットのグルタチオンS-トランスフェラーゼP型(GST-P)と同じPiクラスに属するヒトGSTP1-1(π)の生化学的性質を他の4種類のアイソザイムと比較した。また、酵素反応速度を検討する過程で高グルタチオン濃度において速やかな非酵素的抱合反応が認められたため、それらを定量的に測定し、濃度依存性を明らかにした。化学発癌機構に関連して次の事柄が明らかになった。 1)ヒトGSTP1-1(π)も、基質特異性が広く、ヘマチン、ビリルビンその他の阻害剤に抵抗性である非特異型アイソザイムの特徴が認められた。 2)エタクリン酸、アクロレインなどのGSTの基質の非酵素的グルタチオン抱合反応速度の大きい事実が注目された。非酵素反応は酵素反応速度は、Km(GSH)より高い濃度で一定であるのに対し、非酵素反応はGSH濃度に直線的に比例する特徴が認められた。前癌および癌細胞中のGSH濃度が高いことから非酵素反応による抱合反応も活性化されていることが示唆された。 3)GST-Pの遺伝子発現に関し、融合蛋白発現ベクターを用いてトランス作用因子、c-JUN,c-FOSその他に対する抗体を作成し、免疫組織化学的に検討したところ、両因子とGST-Pとの発現に相関は認められなかった。別なトランス作用因子(Mafなど)の関与、またはメチル化などの重要性が示唆された。 4)癌遺伝子産物、c-JUN、c-FOS、c-MYC、C-Ha-RAS、およびリセプター蛋白GR(Glucocorticoid receptor)、PPAR(Peroxisome proliferator activated receptor)、計6種類の融合蛋白を調製した。それらは、いずれも会合しやすく、高い免疫原性を有するなどの性質が明らかとなった。 現在、GST-Pには内在性の発癌剤をGSH抱合する機能の重要性が示唆されており、その証明、および他のマーカー酵素(非特異型アイソザイム)の生理機能および遺伝子発現との関連が、特に注目される。
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