本研究は、ヒトの非分裂細胞の長生き因子遺伝子をクローニングし、今後の高齢化社会問題の軽減に役立つことを目的として計画された。平成5年度は、さまざまな方法を用いて、1.「長生き因子遺伝子のクローニング」を行い、その候補遺伝子els-1を得た。平成6年度は、2.「長生き因子遺伝子の機能」を調べ、さらに、3.「長生き因子とアポトーシスとの関連性」についても検討した。 1.長生き因子遺伝子のクローニング ヒトの線維芽細胞と神経細胞を用い、非分裂細胞の寿命を延長させる遺伝子のcDNAクローニングをデファレンシャルハイブリダイゼーション法によって行ない、1.5kbのサイズを持つ長生き因子候補遺伝子(els-1)を得た。 2.長生き因子遺伝子産物の機能 クローニングされた未知の遺伝子であるels-1の推測される機能をコンピュータ分析によって行なった。その結果、els-1は出芽酵母のGTPaseアクチベータ-蛋白(GAP)と高い類似性がみとめられたので、els-1は制癌と細胞寿命延長の2つの機能をもつ可能性が考えられた。次に、els-1DNAを神経細胞に導入し細胞内でつくらせた長生き因子候補蛋白質の作用を調べたところ、els-1DNAを導入したものは、対照に比べ、神経細胞の大幅な培養日数の延長が観察された。 3.長生き因子とアポトーシスとの関連性 発現ベクターに組込んだels-1DNAを神経細胞や正常線維芽細胞の代りにSV40で癌化させたヒトの線維芽細胞に導入したところ、導入効率が非常に低く、els-1は癌細胞に対してはアポトーシスを引き起こす作用があることが示唆された。 以上の結果、els-1は正常な非分裂細胞を長生きさせる作用をもつことが示唆され、以後これが動物の寿命延長にも働くことを期待している。
|