平成5年度以前の研究では、胸腺腫自然高発系BUF/Mnaラットの胸腺腫由来培養細胞株の培養上清中には走化活性が常に再現性よく検出されることが判っていた。平成5年度には、この培養上清から、走化因子を精製するため、種々のアフィニティー担体について有効性を検討した。しかし、今のところ有効な担体は見つかっていない。 一方、本因子の性状についても検索を行なった。この因子が胸腺特異的か否かを検定するために、BUF/Mnaラットから胸腺、肝臓、腎臓を摘出し、これらの臓器細胞を初代培養し、その培養上清中の走化活性を検討した。この結果、胸腺培養上清には活性があるが、肝細胞および腎細胞の培養上清にはその活性が低かった。ただし、初代培養ではそれらの細胞の増殖性に差があるため、細胞のコンディションが異なり、評価が難しいので、次に直接、細胞からの抽出液での検討を行なった。胸腺、肝臓、腎臓を凍結・融解あるいはホモジェナイザーにより破砕し、超遠心とフィルターにより細胞抽出液を作成した。これら細胞抽出液の走化活性を検討した。この結果、胸腺には高い活性を認めたが、肝臓、腎臓ではその活性が低かった。胸腺の抽出液を56゚C、30分処理したところ、その活性は約半分に減少した。次に、胸腺の加齢による機能の変化との対応を考え、若齢(7週齢)ラットと老齢(42週齢)ラットから得た胸腺間質細胞を初代培養し、その上清中の走化活性を検討した。その結果、老齢ラットではその活性は減少しており、腺の老化に伴う機能の低下に対応する所見と考えられた。この結果は、この走化因子が胸腺の生理機能と密接に関連していることを示すものと考えられる。 平成6年度には、引き続き、分離・精製のための手段の確立を目指すのと平行して、さらにこの因子の性質・機能についての解析も進める予定である。
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