研究概要 |
胸腺の機能の中で、骨髄細胞の胸腺への移住の機構については未だ良く解っていないが、胸腺の間質細胞が走化因子を分泌し、前胸腺細胞を誘引していることが考えられた。そこで、ラットの胸腺を摘出し、短期間培養し、その上清を用い、骨髄細胞の走化性を検討したところ、走化活性があることが認められた。この活性は、肝臓や腎臓では弱く、また加熱処理により活性が低下した。BUFラットは胸腺腫が自然発生する系統であり、走化因子の分泌能は老化による低下が見られないが、他の系統のラットでは低下する。胸腺間質細胞の培養株でもこの因子の活性が見られた。この因子に反応する骨髄細胞は、比重1,077の分画に含まれていた。原発性あるいは可移植性の胸腺リンパ腫細胞を用い、走化性を検討した結果、いずれも走化因子に対し反応した。また可移植性リンパ腫細胞を皮下に移植し、その局所および転移先である胸腺中のリンパ腫細胞の反応性を検討したところ、胸腺に転移した腫瘍細胞の方が移植部位の細胞より、走化因子に良く反応することが見いだされた。即ち、転移の成立に走化因子が関与していることが示唆された。次に、この因子の精製のため種々の担体を用いて分離の条件を検討した。この結果、ヘパリンカラム、レクチンカラム、色素カラム、ハイドロキシアパタイトカラム等は無効で、DEAEカラム、疎水性ブチルカラム、およびゲル瀘過は有効であった。今後、他の担体の条件を決定し精製を進める必要がある。次に走化因子をコードする遺伝子が発がん感受性を決定する一要因であるとが想定され、ニトロソ尿素による胸腺リンパ腫発生の遺伝学的解析を行った。この結果、BUFラットとWKYラットの交雑系では、腫瘍発生の潜伏期間を決定する遺伝子(暫定的にT/s-3と命名)がGc遺伝子(血清中ヴィタミンD結合蛋白)にリンクしていた。今後、発がん感受性と走化因子との関連性も検討を続ける必要がある。
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