研究概要 |
本年度は胆内肝汁うっ滞と細胞骨格蛋白のリン酸化の異常を分子生物学的に解析する第一歩として、我々が遺伝子クローニングしたチロシン脱リン酸化酵素PTH1について解析した。PTPH1 cDNAの塩基配列より推測される蛋白の一次構造は酵素領域の他に細胞骨格関連蛋白であるtalin,ezrinなどと一部に相同性を有していた。肝細胞癌などいくつかの培養細胞株のtotal RNAを用いた通常のnorthern blot法ではPTPH1 mRNAは検出できずその発現レベルが低いことが示唆された。そこでRT-PCR法を用いてmRNA発現を検討した。大腸癌9株、胃癌5株、肝細胞癌5株、血液系悪性腫瘍6株の殆どすべての細胞株に発現を認め、PTPH1は肝細胞のみでなくかなり広範な細胞に出現しているものと考えられた。しかし、遺伝子増幅のためc-mycを過剰発現している大腸癌細胞株Colo320ではPTPH1 mRNAの発現を認めなかった。そこで分化誘導剤であるsodium butyrate存在下でColo320細胞を培養したところ、c-mycの発現低下に伴いPTPH1 mRNAの発現が増加することを見い出し、未分化で増殖に傾いた細胞よりやや分化した細胞での形質であることが示唆された。次に、fluorescence in situ hybridization法を用いて、PTPH1遺伝子座の決定を行ったところ,染色体9番長腕31領域に存在することが明らかとなった。この領域には顎骨や脊柱の発育異常をもち、また、基底細胞癌高発癌性の優性遺伝性疾患であるGorlin症候群の原因遺伝子が存在する。PTPH1と細胞骨格蛋白の相同性を考えると本症候群遺伝子座とPTPH1遺伝子座の一致はきわめて興味深く、Gorlin症候群患者DNAを用いた検討を開始している。
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